取材こぼれ話
株式会社ニットク/ユニトライク株式会社・長岡技術科学大学/ホリカフーズ株式会社
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- 2025夏号 No.171 目次
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株式会社ニットク
手洗い水再生装置を搭載した
画期的な自走式トイレカーが誕生
にいがた防災産業展で初お披露目となる「トイレカー RE/BIO(リバイオ)」は、微生物の力で水を浄化するシステムを搭載し、手洗い用の水を循環し続けて利用できる画期的なトイレカーです。複数の県内企業と長岡科学技術大学が、新潟県が取り組むプラットフォーム「にいがた防災ステーション」をきっかけに出会い、オール新潟のプロジェクトで誕生しました。
自走式トイレカーを開発・製造・販売しているのは、建設機械や除雪車などを手掛けているニットク(魚沼市)。きっかけとなったのは、ある建設会社からの依頼でした。「工事現場の仮設トイレを嫌がって、優秀な女性社員が離職してしまった」という相談から、軽トラックを使った自走式で、どんな現場にも移動できるトイレカーを開発。「内装は家のトイレと同レベルの快適さを追求しています」と、設計開発部 取締役部長の荒井和孝さんは話します。同社のトイレカーは、鍵を複数つけることで防犯性に優れ、プライベート空間も確保できるなど、女性も安心して利用できる仕様になっています。
また、その管理のしやすさも特徴です。仮設トイレの最大の課題は汲み取りですが、このトイレカーの汚物タンクはバキュームカーのホースに接続できるほか、自己排出もできるため、下水管があれば、そこに直結して処理することができます。汲み取り業者が来られない場合は、処理施設まで自走していくこともできます。
同社は2022年ごろから建設業者や道路公団などへトイレカーの販売を開始。大雪による国道の大渋滞時に活用されたのをきっかけに、能登半島地震の際は輪島市と珠洲市に計5台を貸し出し、被災地で大きな役割を果たしました。現地に何度も足を運んだ荒井さんは、トイレカーが被災者の方に喜んで利用してもらえている様子を見てほっとした、と振り返ります。
今回のコラボでは、トイレカーの中に水浄化システムを搭載し、手を洗う際、いつでもきれいな水が使用できるようになります。「全国でも初めての仕様になるので、注目度は高いと思います。ライフラインが寸断された場所では、水の量を気にせずに手が洗えるのは喜ばれると思います」と荒井さん。現在は障害のある方、車いすの方でも使えるトイレカーを開発中。誰もが安心して使える衛生環境を災害の現場へ、そして未来へと届けています。
ユニトライク株式会社・長岡技術科学大学
オール新潟で実現したプロジェクト
微生物の力で浄化される「水」がキーワード
手洗い用の水を循環し続けて利用できる画期的なトイレカー「RE/BIO(リバイオ)」。こちらに搭載されているのが、水浄化システムウォーターチェンジャー®「バイオランドリー」です。この浄化システムは、長岡技術科学大学が開発を主導し、ユニトライク(新潟市)が商品化したもので、雨水や川の水も手洗いに使用可能なレベルまで浄化できます。中にはヤシガラでできたバイオキャッチャー®があり、そこに微生物が棲みついて汚水を浄化。メンテナンス不要で、ろ過材などのごみも出ない、環境に優しい製品です。
ユニトライク代表取締役の村上秀樹さんは、当初は建設現場の環境整備のため、水再生の技術に注目。商品化したウォーターチェンジャー®は、令和6年度新潟県知事表彰技術賞を受賞しました。平時は長岡花火大会の会場で、観覧客の手洗いなどに利用されています。
能登半島地震の際は、断水で水が使えない避難所へバイオランドリーを設置。少量の水でも循環して使えるため、被災地の手洗い環境を支えました。
同社は、新潟県が取り組む産学官連携のプラットフォーム「にいがた防災ステーション」をきっかけに、トイレカーのニットク(魚沼市)とのコラボを計画。水の消費を抑えたいトイレカーと、水をリサイクルできる浄化システムがマッチングしました。さらに、オゾン水製品などを手掛ける柏崎ユーエステックが車載用ウォーターチェンジャー®を製造し、産学官が連携したオール新潟のプロジェクトが実現しました。
長岡技術科学大学の客員教授である吉澤厚文さんは、「研究、開発、製造までが産学官連携で進められ、本プロジェクトのメンバーがみな新潟県で構成できていることが、とても素晴らしいと思います。研究成果が社会実装され、多くの人の役に立つものになっていくことは感慨深いです」と話します。
災害時だけでなく、水が貴重な地域で活躍できるポテンシャルを持ったトイレカー。新潟から全国、世界への展開も期待されています。
ホリカフーズ株式会社
魚沼発、進化を続ける災害食
輸送用ダンボールまで無駄なく活用
ホリカフーズ(魚沼市)が開発・販売している災害食の「レスキューフーズ」は、火や水、電気を使わずに発熱剤の力で温かい食事ができる優れもの。開発のきっかけは阪神淡路大震災でした。「阪神淡路大震災が起きた際、現地に調査に行ってみると、災害食はアルファ米など調理をしないと食べられないものばかりでした。さらに、救命業務にあたる人などはたくさんのエネルギーを必要とするのに、食べるものは避難所のそれと同じ。働く人向けの災害食も無いことに気づきました。」と、営業部長の目黒智大さんは話します。
自衛隊向けに作っていた災害食を、民間に展開できないかと考えて生まれたのが、レスキューフーズ。2003年に販売を開始し、翌年に起きた中越地震の際は、社員自らレスキューフーズを食べながら工場の復旧にあたりました。災害食としてはオーバースペックではないか、との評判もありましたが、東日本大震災の際に提供したところ、やはり被災時には温かい食事が必要である、ということを再確認したそうです。
災害時の食として課題となったのが、野菜不足や栄養不足。発売後も研究開発を重ね、野菜たっぷりのメニューや要介護者向けのやわらか食など、ラインナップも年々進化しています。
また、同社は災害食・防災食を広く認知してもらい、生活のなかに取り入れながら備蓄していく、というアプローチにも取り組んでいます。そのひとつとして、アニメ作品「新世紀エヴァンゲリオン」をモチーフにした防災備蓄品を展開するプロジェクトに参加し、特別バージョンのレスキューフーズの販売が予定されています(今秋発売予定)。
「にいがた防災産業展」では、県内のダンボールメーカーと共同開発した「にいがたパッケージ」を展示。県内企業の災害食を中心に構成されたパッケージ商品で、レスキューフーズの輸送用ダンボールを、避難生活で使える引き出し付きの収納箱として再利用できるものです。運んだ後にゴミとして捨てられてしまう輸送用の箱を活用できないかと考えていたダンボールメーカーと協力し、今回の開発に繋がりました。
温かくおいしい食事の提供はもちろん、避難所での快適性も叶える、工夫の詰まった一箱に注目です。